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中間管理職をタコ壺から引きずり出そう【2】  織田 聡

織田 聡

2000.1.18


 なぜ中間管理職層は変化に鈍感になったのか =無慈悲な外部圧力に晒されていない?

 野中郁次郎氏は、有名な「ミドルアップダウン」というコンセプトを80年代に発表し、「情報処理におけるミドルの強さが日本企業の強さの一要因」と主張した。 「ミドルアップダウン」とは、「トップダウン」でも「ボトムアップ」とも異なり、情報の質、量において勝るミドル層がトップマネジメントに自分達の考えを働きかけ、同時に現場の部下達を差配するという日本企業に見られる意思決定、行動パターンを表わした言葉である。

  外部環境が連続的で暗黙知の継続的な蓄積が競争優位の源泉である時代には、インフォーマルな社内ネットワークを泳ぎ、会社特有の属人的情報に通じたミドルが行動のイニシアティブを取るというスタイルは有効だったかもしれない。しかし、国内に限られた競争の枠組みが大きく変わる中で、企業の生存、強化にとって大事な情報は社内ではなく、社外(株主、消費者など)にある。

 私事で恐縮だが、筆者の社会人の駆け出しは、当Webの読者、寄稿者も在籍している某鉄鋼会社である。
 鉄鋼事業に携わる人員を仮に1万人としよう。そのうち、直接顧客に接し無慈悲な外部の生の声を聞く立場の人間はどれくらいいるだろう。200人(2%)もいないのでは? しかもエンドカスタマーではなく商社経由の商売も多いだろうから、虚心坦懐な気持ちで顧客の考えや、ニーズを聞く人がどれくらいいるのだろうか。 特に、中間管理職の中で、顧客に文句を言われ、自分の子供くらいの年の人間に頭を下げる人がいるのだろうか。




 更に余談だが、企業ではじめて近代的な組織を導入したのは19世紀の鉄道会社である。当時の鉄道会社の最重要経営課題は、「いかに時間に正確に運転するか」、「いかに列車同士の衝突を回避するか(都市間の線路は単線)」だった。そこで情報の効率的処理と命令伝達を行なうための装置としての組織が形成された。客と接する部門は全社員のうちのごく一握りであった。
 組織がなぜ生まれてきたかいくつか要因があるが、それは情報処理のコストを下げ、また不確実性を減らすためである。もし膨大な情報処理のコストがタダで、しかも外部不確実性が低ければ、必要な業務、部品はそのつど市場から買えばいいだけのこと。みんな自営でいいわけ。みんな外部の圧力に向き合えばいいのだ。

 なぜこんな話を持ち出したかと言うと、「組織が過去の経営環境に過剰適合して、多くの中間管理職が外の圧力から遮断されすぎているのでは?」 との思いを強く持つからである。 自分の権限や権力の及ばない、しかも自分の生活を左右する人からの遠慮の無い意見は、人間を謙虚にし、「何をすべきか」について自らを顧みさせる。
 日本の中間管理職は決して強くない。それは外を向かなくても生存できてきたからだ。外を見なくてもいいということは、仲間内の繭の中で変化をやり過ごしても暮らしていけたから。
 経営者はかつてなく資本市場の圧力を感じるようになっている。組織の繭の中で中間管理職が外の圧力から逃げている姿は格好の良いものではない。

 果たして、中間管理職は変われるのか

 現状を悲憤慷慨ばかりしていても事態は良くならない。どうすれば中間管理職を外部志向、未来志向、変化志向に変えていけるのだろうか。
 幸いと言うか不幸と言うか、この経済状況によって、会社にしがみ付いていても自分の安全保障にはならないとの意識はかなり浸透してきた。問題はその後、既得権維持に走るか、それとも自己変革の努力を行なうかに掛かっている。後者を行なわなければ意味が無い。

 中間層をどうやったら変えていけるのか。 答えは、原因の裏返しである。つまり「外部圧力に晒させる」ことである。
  ここでいう「外部」もいくつかの局面がある。
 まずはその企業の属する製品・サービス市場の顧客からの圧力に、多くの中間管理職層を晒し成果責任を持たせる。管理職になっても自らのアカウントを持たせ、内部情報処理などより顧客対面と顧客満足獲得に多くの知的資源を使わせるようにすれば、変化対応の必要性を認識するだろう。
 また、経営者層のみならず社員まで株価を報酬に一部連動させれば、資本市場の圧力を一人一人が認識することになる。

 それでも変わらない場合は、労働市場に一人で立ってもらうしかない。製品・サービス市場と対面したときの苦労などは、自分が労働市場で対面する苦労とは比較にならないくらい過酷だろう。自社の製品・サービスを顧客に頭下げて売る場合は曲がりなりにも会社の看板が使える。でも生身の一人の人間にどれだけの看板価値があるのか。働きながら能力開発にかかる時間とコストを考えたら、労働市場での勝負は割に合わない。

 中間管理職の皆さん、心地よいタコ壺はもうありません。動くのが遅くなるだけ外部圧力は酷になるのです。早く現実に目覚めてもっと外に目を向けましょう。

 現実に目をつぶる者は、現実によって処罰される

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